ニュースの概要

シンガポールのCreatz3Dが、セラミックの積層造形(=材料を一層ずつ積み上げて形を作る方法)でつくったアルミナ製リフトピン600セットを、世界的な半導体ファウンドリーへ納入した。リフトピンは、化学気相成長(CVD)装置の中でシリコンウエハーを支え、位置を決める細い部品である。使われるのは高温、プラズマ、真空という厳しい環境だ。同社は量産適格性の評価も終え、印刷から後処理までの全工程を6週間で終えたという。従来は調達に数カ月かかることが多く、納期の短縮に加えて、海外調達への依存を減らす効果も見込まれている。

引用元: Creatz3D、半導体ファウンドリー向けセラミックAM部品600セットを納入(AddiWire)

分析・見解

試作の技術が、量産ラインの消耗部品に入り込んだ

3Dプリンターは長いあいだ、試作や治具づくりの道具と見られてきた。今回の話が重いのは、納入先が半導体の工場で、しかも600セットという数量だからである。リフトピンは製造装置の中で消耗する部品だ。つまり一度きりの試作ではなく、繰り返し買われる部品である。ここに積層造形が入ったことは、用途が「試す」から「使い続ける」へ移ったことを意味する。

6週間という数字が示す、本当の競争相手

セラミック部品は、粉を固めて高温で焼く。この焼成で材料が縮むため、寸法を合わせるには経験と調整が要る。従来の方法では、専用の型を用意し、焼成条件を詰め、検査を重ねる。その結果、数カ月かかる。今回の6週間には、印刷、脱脂(=成形に使った結合剤を抜く工程)、焼結、仕上げ加工までが含まれる。型づくりの待ち時間が消えるだけで、全体の日数は大きく縮む。比べる相手は他の3Dプリンターではない。専用型を前提とした従来の調達の流れそのものである。

技術より難しいのは、量産適格性評価を通すこと

半導体の現場では、部品を変えるだけで歩留まり(=良品の割合)が動く恐れがある。そのため、新しい部品の採用には厳しい評価が必要になる。粒子の発生、寸法のばらつき、プラズマによる劣化などを長期間確かめるのだ。Creatz3Dはこの評価を完了した。私はここが今回の最大の成果だと考える。形をつくれる企業は多い。しかし、同じ品質を何百個も続けて出せると顧客に証明できる企業は少ない。自動車の鋳造部品でも、試作が通ることと量産が通ることの間には、同じ深い溝がある。

供給網の短縮が、産地や規模の価値を変える

海外調達への依存を減らせる点も見逃せない。型が要らなければ、地元の拠点で必要な数だけ造ればよい。在庫を抱える理由も弱くなる。ただし課題も残る。粉末の品質管理、焼結炉の確保、検査の自動化は、設備を持つ企業ほど有利に働く。技術が広がるほど、勝負は設備の数ではなく、品質を保証する仕組みの差に移っていくだろう。

ビジネスへの影響

少量でも安定供給できる企業が、選ばれやすくなる

今回の事例は、数百個単位の注文でも、型を使わずに短い納期で応えられることを示した。鋳造や試作を手がける中小企業にとって、これは身近な話である。木型や金型をつくるコストと時間が壁になっていた案件が、積層造形を使えば成立する可能性がある。まずは自社の受注の中で、型代が重くて断っていた少量案件を洗い出してみるとよい。そこに新しい売上の種がある。

評価データを積み上げることが、次の受注につながる

お客様が知りたいのは、技術の新しさではなく、同じ品質が続くかどうかである。寸法の測定記録、材料ロットの履歴、試験条件を、日々の仕事の中で残しておきたい。この記録があれば、量産への切り替えの話が出たときに、すぐ根拠を示せる。逆に、記録がなければ、どれだけ良い部品でも採用の段階で止まってしまう。

設備を自前で持つか、パートナーと組むかを早めに決める

焼結炉や検査機器は高額である。すべてを自社で抱えるのは現実的ではない。得意な工程だけを持ち、残りは外部と組む選択もある。意思決定の目安として、年間の受注見込みと、型代が占める割合を並べて比べるとよい。早く決めた企業ほど、評価データも早く貯まる。

関連記事

[PR]