ニュースの概要
米陸軍の研究機関DEVCOM ARLが、金属3Dプリンターで造ったロータリーエンジンをハイブリッド型ドローンに載せ、飛行させたと報じられた。エンジンは重質燃料(=軽油や航空燃料に近い燃料)で動き、発電機を回して機体に電気を送る仕組みだという。ドローンの電池だけでは飛行時間が短く、燃料を使う発電機との組み合わせで長く飛ばす狙いがある。これまで金属3Dプリントは試作品や簡単な治具に使われる場面が多かった。今回は、回転し、熱を持ち、振動にさらされる動力部品が空を飛んだ点に意味がある。部品を一体で造る発想は、複雑な中空形状を扱う鋳造業界にも直接関わる話である。
引用元: AddiWire、米陸軍研究所が金属3Dプリント製ロータリーエンジンを搭載したハイブリッドドローンを飛行させたと報道(AddiWire)
分析・見解
試作品から本物の動力部品へ踏み出した意味
ロータリーエンジンは、ピストンの往復運動ではなく、おむすび形の回転子が円を描く構造をもつ。部品点数が少なく軽いが、密閉部分の精度と熱の管理が難しい。そのため量産品でも設計の自由度は低かった。
金属3Dプリントは、この制約を取り払う。冷却用の細い通路を壁の中に通したり、複数の部品を一体にしたりできるからだ。今回の飛行は、そうした形が実機の負荷に耐えうることを、軍の研究機関が示した例といえる。
ただし、飛行できたことと、長期間の信頼性があることは別の話である。何時間で疲労が出るのか、造形ごとのばらつきはどの程度か。ここは公開情報だけでは判断できない。
鋳造の得意領域と重なるのは中空と一体化
鋳造は、中子(=鋳型の内側に入れて空洞を作る砂の塊)を使って中空形状を作ってきた。エンジンブロックやポンプケーシングがその代表である。
一方で、中子が入らないほど細い通路や、取り出せない閉じた空洞は鋳造では作れない。金属3Dプリントはそこを埋める。たとえば航空機の燃料ノズルでは、ゼネラル・エレクトリックが20点前後の部品を1点に統合し、軽量化と工程削減を実現した例がある。今回のドローン用エンジンも、同じ流れの延長にある。
重要なのは、これが鋳造の置き換えではないという点だ。大きく単純な形を大量に作るなら、鋳造のほうが1個あたりの費用は桁違いに安い。3Dプリントは、形が複雑で数が少ない領域で力を発揮する。
見落とされがちな独自の視点は鋳型側の3Dプリント
多くの議論は、製品そのものを3Dプリントで造る話に集中する。しかし鋳造業にとって現実的な入口は、砂型や中子を3Dプリントで造る方法である。製品は従来どおり鋳造で作り、型だけを積層造形で作る。
この方式なら、材料の認証や品質保証の枠組みは既存の鋳造のままで済む。それでいて、木型を作る工程が不要になり、複雑な中子も一体で造れる。軍用エンジンのような高い信頼性の要求にいきなり挑むより、はるかに低いリスクで3Dプリントの利点を取り込める。
防衛分野が先行する理由と民間への波及
防衛分野は、価格より性能と納期を優先できる。数十台の特殊機体のために、専用の金型を起こすのは割に合わない。そのため3Dプリントが最初に採用されやすい。
過去にも、航空宇宙向けに磨かれた技術が数年後に自動車や医療機器へ広がった例は多い。ドローン用の小型エンジンが実用になれば、発電機や産業用ロボットの動力にも波及するだろう。鋳造業界は、この流れが自社の受注にどう影響するかを今のうちに見ておく必要がある。
ビジネスへの影響
自社の部品を中空と統合の目で見直す
まず、手持ちの製品を棚卸しすることを勧める。複数部品を溶接やボルトで組んでいるもの、内部の通路が加工で後から開けられているもの。こうした部品は、3Dプリントで一体化すると利点が大きい。
判断の目安は三つある。年間の数量が数百個以下か、形が複雑で加工に手間がかかっているか、納期短縮に価値があるか。この三つが重なる部品から検証を始めるとよい。
設備投資より先に外部連携と型の内製化を試す
金属3Dプリンターは数千万円から数億円と高額で、粉末の管理や熱処理の知識も必要になる。いきなり購入せず、まずは外部の造形受託会社と組んで、試作を数点だけ依頼する方法が堅実である。
並行して、砂型3Dプリンターによる中子の内製化も検討に値する。木型の職人が減る中で、型づくりの技能を補う手段にもなる。造形の知見が社内に残り、将来の金属造形への足がかりにもなる。
問い合わせが来たときに、鋳造と3Dプリントのどちらが向くかを即座に説明できる体制を整えておくことが、取引先からの信頼につながる。